2018年06月20日

建築基準法を守る意味

大阪を中心に起きた地震で9歳の女の子が犠牲になりました。


既に皆さん御承知のように「ブロック塀」の下敷きになって
亡くなってしまいました。大変残念な「人災事故」です。
この事故について様々な投稿が有るのですが、一般の方には
分かりにくいので、その辺りも含めて私の考えを記したいと思います。

誰でも、どこにでも簡単に見かけることの出来る「ブロック塀」。
様々な意匠が有りますよね。ブロックの種類、積み方。色々です。
和風の家ならば化粧ブロックで積んでいるのではないでしょうか。
古い家ですと灰色の、いかにもブロックっていう感じのものを
積んでいたりしますよね。ブロックは見た目では分かりにくい
のですが、何種類か存在します。今日は触れません。

作り方には大きく分けて「ふたつ」有ります。簡単に言うと
「鉄筋」が入っているか、入っていないかです。入っていない方を
単純にブロック積と言うのではなくて正式には「組積造」と言います。
ブロックには穴が開いていて、積んでいく過程で穴の中にモルタルを
詰めて行くのです。つまりモルタルの付着強度で塀は立っている
ということですね。私は小さな頃に、よくブロックの塀によじ登って、
塀の上を歩いて遊んだものでした。物凄く冷やりとすることが
有ったのですが、最上部の「笠木」という化粧のブロックが、簡単に
外れるんです。ぐらっと来て落ちましたね。よく大怪我をしなかった
ものだと、ご先祖様に感謝している今日この頃。

正直、モルタルだけの強度なんて、しれているんです。
ですから、この「無筋」のブロック積の高さの制限は「1.2m」まで
とされています。昭和56年以前では2mでした。他にも制限が有ります。
高さの1/10以上の「厚さ」が無ければ駄目だとか、4m以内に
「控壁」と呼ばれる壁を支える壁が必要になるんです。
でも1.2m以下の低い塀では、この控壁が付いていないものも
多く見かけるでしょう。それは塀の厚さが高さの1.5倍以上あれば
設けなくても良いことになっているからです。1.2mの壁ならば
18センチの幅のブロックで積めば良いということになりますね。

でも1.2m程度では塀というには低すぎますよね。そこでもっと高く
ブロックで塀を作りたいとなったら「鉄筋」を入れて作る方法を取ります。
これを「補強コンクリートブロック造」と呼びます。鉄筋で補強するから
ですね。しかし、この工法も高さは「2.2m」までとされています。
昭和56年以前は3mまで積むことが出来ました。この工法も制限が
多く有ります。鉄筋を入れることは、もちろんですが、先ほども出た
控壁を「3.4m」以内に高さの1/5以上突き出た状態で設けなければ
ならないのです。

無筋の1.2m以下のブロック積ならば厚さを満足すれば控壁は省略
できるのですが、補強コンクリートブロック造では、緩和の規定は
ありません。
と、言いたいところですが、有ります。今日は、このことを言いたかったのです。

建築基準法は、うんざりするほど詳細に規定が定められています。
皆さんご存じないかもしれませんが「建築基準法」よりも
「建築基準法施行令」の方が断然事細かに記載されています。
何度も改正されているので、我々でも理解できなかったり、間違ったり
する程です。このほかに「告示」も検討しなければなりません。

さて、補強コンクリートブロック造の緩和ですが、これは国土交通大臣の
定めた基準に従って「構造計算」を行って安全であることが確かめられた
場合には規定は除外するという内容です。
しかし学会でも、この曖昧な条文と実際の構造強度とを鑑みても、
施行令に定められた工法を守ることが優先だというように考えているようです。
そうです「最低限」という意味合いです。

大阪で倒れた塀は「高さ3.5m」にも達していました。プールに設置されて
いるようですが、内部の画像が分からないので適切な表現か分かりませんが、
鉄筋コンクリートの「基礎」が1.9mで、その上に8段に積まれたブロックが
有ったようです。画像を見ると、私には鉄筋が配筋されているようには
見えません。つまり「組積造」ということになります。1.6mでは1.2mを
超えていますから、基礎の部分を除外しても違法です。そもそも塀の高さは、
地面からなので「低い方」を採択することから、もう全然駄目なんです。

もしも鉄筋が入っているとしても2.2mを超えているのですから、
構造計算によって安全性を確かめられた場合で無い限り、この施工は
問答無用で「違法建築」行為となります。そもそも「塀」は建築物なので、
ちゃんと建築確認を取ったんでしょうね?ということです。
確認も構造計算も、まぁやっていないでしょうね。やっていたら、とてもこんな
作りな訳が無いし、申請出して「許可」なんて下りないですからね。
1998年築造だそうです。20年前ですよ。呆れます。

先ほど昭和56年で法律が改正されたと書きましたが、これは宮城県沖地震で
ブロック塀の倒壊によって多くの犠牲が出たからです。地震は定期的に
起こっています。甚大な被害が出ます。尊い生命が失われます。
だから法整備もされます。我々建築士は安全の為に十分に検討して設計を
行います。それでも被害は無くなりません。正直、未曾有の自然災害であれば、
予期せぬ被害を完璧に防ぐことは難しいと思います。しかし今回起きた事故は
完全な「人災」です。あんな、とんでもないものを作りさえしなければ、女の子は
怖い思いをしても、無事に家族の下に帰ることが出来たのです。
悔しくて堪りません。書いていると涙が、ボロボロ零れてきます。

馬鹿か!!!学校も行政も馬鹿だ!!教育委員会の施設管理課!!!
死んで詫びろ!!!
昨日今日になってから慌ててブロック塀を視察、調査しているニュースが流れた。
余計に腹が立つ。なんで人が死ななきゃ動けない。それじゃ遅いだろ。
みんな知ってるだろ?!
行政は地震が来ると危険ですから自分の命は自分で守りましょうとかって
大騒ぎして、大変なお金を注ぎ込んで、防災マップ作ったり、啓蒙活動に躍起に
なっただろ?!でも本気じゃないって、これで露見しちゃうんだよ!!!
だから国民も「俺んとこには地震は来ない」って高をくくっちゃうんだ。
それで死んじゃうんだよ。

建築基準法は最低限のレベルを記載したものです。確かに施行令の中には
なんだそりゃ?!って条文も有ります。でも最低限について「軽いもの」と
受け取ることは大変に危険なことだと知っておかなければなりません。
私たち建築士は、もとより、一般の方々も、これだけは守っても、それ以上は
責任取れないよって国が言っているってだけだってことを知っておいた方が良いです。
建築基準法を守るってのは、パンツを穿いて外を歩くっていう程度の、
極々初歩的なマナー程度だってことですよ。



建築家 本多 信章さんの家づくりプロフィール

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Posted by アーバンギア at 14:55│Comments(2)建築
この記事へのコメント
胸を痛めていますが読んで少しだけスッとしました。
ありがとう です。
Posted by takibitakibi at 2018年06月21日 04:48
takibiさん:

ご無沙汰しております。
このような重たい記事を読んでくださって、
ありがとうございました。時間が経てば経つほど、
僕は、怒りがこみ上げてきます。
役所の仕事は実に「お役所仕事」が多いですよね。
もう少し、まともな感覚で仕事をして欲しいと
願わずにはいられません。
Posted by アーバンギアアーバンギア at 2018年06月25日 21:30
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