2013年06月06日

4号特例の問題

建築士らしいタイトルで、自分でも驚きますな。

私はHOUSECOという建築家と施主を結びつける
「出会いの場」のようなサイトに登録している。
正直商売に直結するほど甘いものではないのだが。
まぁそれでもありがたい存在だと思っている。

このサイトで、ちょっと話題というか問題になっている事がある。

Q&Aのコーナーに家を建てたんだけどアルミサッシの
隙間から風雨が入ってきて困っているというものだ。

実は木製のサッシならば、これは頻繁に起こる。
正直「致し方ない」部類に入るであろう。
しかし既製のアルミサッシから雨や風が耐えられないほど
進入してくるのは、とても問題である。そもそも
そういう風には作られていないのだから、なにかしら
問題が発生している事は間違いない。

この質問者の投稿をよくよく読んでみるとサッシどうし、
つまり建具と建具の間から風雨が進入するようである。
これは問題だ。

家の外からガムテープを張って「はめごろし」にして
凌いでいるそうだ。考えられん。
画像は添付されていなかったのだが、実は、この建物の
様子を見ることは、そんなに難しい事ではなかった。
問題にされている窓は大変に大きい。しかし背の高さは
2m程度の普通のもの。建具の幅が広いのだ。
パット見た感じでは4間ほど開いているように見える。
その間には柱らしきものは無い。

建物は木造だ。 設計は建築家の手によるものだ。

考えられない。
もっともっと考えられないと思わせるのは、その開口を持つ
居室は2階まで吹抜になっている。しかもその部屋は建物の
中央に挟まれる状態ではなく「はしっこ」に作られている。
建物の規模自体は、さほど大きくない。

この間取りを「木造」で作るとは、あまりにも無謀だと感じた。
予算とのせめぎ合いだ。
我々建築家、つまり設計屋は設計の仕事を取るためには、
クライアントの要望に忠実にプランを立てなければ
簡単にそっぽを向かれる。相手は「素人」だと十分分かっている。

面と向かって話をしているもの同士であれば「きっぱりと」言う
かもしれないが、ネット上でアイデアを買ってもらうような
やりとりでは「おべっか」「ごますり」が最大の武器になる。

建築雑誌には竣工したての美しく、仰天のデザインの建物が
掲載されている。それらの「すっとんきょう」な建築物が
「その後」どのようなクレームに泣かされているかまで紹介されて
いる書籍は皆無に等しい。滅多な事ではお目にかかれない
「恥部」「本音」。

しかしそれでもだ。私は建築家だ。しかも構造の建築家ではなく
デザインに特化した建築家だ。デザイン、形状には、常に
挑戦し続けたいと願っている。だから構造も勉強する。
どこまでもどこまでも追求する。得心が行くまで続ける。

怖いからだ。

キャリアのあるものは「怖さ」を知っている。この怖さを知って
初めて一人前の建築士、建築家になったと言えるだろう。
若者は怖さを知らない。それは有利に働く事もある。
しかし建築は犬小屋レベルのものではない。人の命と財産を守る
大切な行為を支えるものだ。
人間性が最も重要になる。
事件もあった。

私は修行時代にお世話になった建設会社と工務店がある。
どちらも良いお手本にはならなかった。実務を知らない私は
当然のように「それで良いんだ」と刷り込んだ。
お蔭で大変な「勉強」をさせて頂く事になった。恐怖を知ったのだ。
雨漏りも沢山経験した。居室のドアが開かなくなった事もあった。

そこに集う業者達のレベルも大変に低かった。管理建築士は
現場に出なかった。出ても「無駄話」と「材料の手配」の話しか
現場ではしていなかった。

独立したのには、きっかけがあった。
この人たちの下で働いていても満足なものは作れないだろう。
そう考えたからだ。私は独立してから現場で嫌われた。
しつこかったからだ。何度も何度も念を押す。立ち会って仕事を
見ている。そりゃ相手は、やりづらいであろう。
大工は設計図を見なかった。私が詳細に書けば書くほど
「分かってるよ」という反応だった。常にやり直しが発生した。

知識と話術を身に付けて「設計図」を見てもらえるよう努力した。
良い職人を見つけては名刺を渡してブレーンを作った。

木造2階建に「4号」というカテゴリーがある。
これには特例があって建築士が設計したものであれば、構造について
詳細な検討書類を添付する必要が無いとなっている。
間違えないで欲しい「出さなくて良い」だけで「やらなくて良い」とは
誰も言ってないのである。

しかし多くの場合「出さない」ではなく「やっていない」であろう。
私も普通の家、普通ってのは素人には解説しにくいなぁ。
構造計算は行わないで設計をする事が多い。壁量計算は行うが。
計算をしなくても「はっきりと」構造が強度を満たしていると
判断できるケースが「一人前」になれば分かるようになる。
それでも構造計算をする場合は「けちる」為だ。
ギリギリまで材料を落としてコストを下げる。あまりやらないが...

最初に話したクレームの事例は設計図も現場も見ていないので断言は
出来ないが、私なら最初に「構造強度不足」を疑う。
サッシの変形だ。

2階建の建物には通常「胴差(どうさし)」と呼ばれる外周を回る
梁桁が掛けられている。梁は両支点で支えられているので当然
「たわみ」が発生する。たわまないように「梁せい」の高さを検討する。
通常木造では2間半以上梁を飛ばす事はしない。これが、先ほど
言った「普通」に当たる。もちろんそれ以上長い梁を掛ける事もある。

木の場合 D/L>1/12という公式がある。
鉄ならば D/L>1/15 だ。コンクリートなら1/10であるから
木の梁がいかに「たゆんではいけない」ものかが分かる。

よく言う2間とは3.64mだ。有効長さであるから仮に柱の太さの10㎝を
引いて3.5mだとして300÷3500=0.0857 1/12=0.083を僅かに上回った。
しかし我々建築士であれば柱が1本しか乗らない梁で2間までなら
30㎝の背の梁を普通に採用する。まぁ私は、それに集成材を使って
更に安心料を払っておくが。

しかしだ。
2間半以上の場合には「オーダー」の梁でなければ間に合わない。
「構造設計」が必要だ。 梁を検討する為には「基礎」も構造計算しなければ
計算に使う「数値」が揃わない。大変な事になる。
7m以上も飛ばす梁となれば60㎝を越す集成材になる事は必至であろう。
大変な重さだ。 そう自重で「たわむ」のである。
大きくすれば、それだけたわみの量が増えてしまう。イタチゴッコだ。

つまり梁の重さでサッシが変形した可能性が大きいと睨んだのだ。

それに加えて吹抜。水平構面を持っていない。建物の変形を押える事が
出来ない。構造計算の根拠の提出を求められない4号の特例では
水平構面の有る無しの強度の検討は、されないのである。
すれば良かったのに...

ちなみに先ほどのたわみの計算であるが、木の場合、これに「2㎝以内」と
いう「念押し」までついてくる。逆に言えば真ん中で2㎝も下がっているのだが
これくらいなら建具に影響が出ることはないとも言えるのだ。
つまりサッシに影響が出ているということは、2㎝以上も梁は「垂れて」いる
ことになる。これが長期になれば更に垂れるであろう。
なぜ中間に柱を入れなかったんだろう...
柱を入れても開放的な大開口を作ることは可能だったはずだ。
もしクライアントが「柱を入れない」に強く拘ったのなら鉄骨造か
コンクリート造、もしくは混構造にするよう進言するのが、責任ある
「建築家」だと私は思う。

ただいつも思うのだが。
やはり素人が判断できるものではないのだ。
どうやって建築家、設計者を選定するのか...

大変な学歴と実績のあるものが起した問題であることを考慮すると
何を判断材料にするか、教えてあげる術が私には無い...

※この建物は6.37mの梁が掛かっている。たわみは、ギリギリの数値だった。
プレカットではもう5センチ低くても大丈夫だと言ってきたが、私は
自分で計算した結果を押し通した。プレカット屋に責任は取れないからだ。
それにしてもスラブと梁の計算を木造と鉄骨で「手計算」でやらなければ
ならなかったのには泣いたなぁ~。ああ、予算潤沢の仕事、ゲット出来ないかなぁ~

4号特例の問題


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Posted by アーバンギア at 19:10│Comments(4)建築
この記事へのコメント
突然すみません。時々拝見させていただいております。
ちょっと気になりましたので、書き込みさせていただきます。
当方の推測では、これは構造に起因しているのではなく、サッシがフロントサッシなど何か水密性の低いサッシを採用しているからではないかと思います。
私も部外者ですが、いろいろ邪推してしまいます。
Posted by ts at 2013年06月08日 23:31
tsさん:はじめまして!拙い手記を御覧頂いているようですね。
うれしいです。時々でも結構です。どうかコメントなり残してください。
ひとりぼっちで仕事をしているので結構励みになります(笑)

さてご指摘があったので再度、というか初めて画像を拡大してみたりして
確認してみました。
私は本文中に柱が全く無いと書きましたが、柱は1本入っていますね。
LDKの天井高も2400くらいは、ありそうなのでサッシュは住宅用では
無いと思われますよね。
2階部分の方立の見附や見込みを見るとフロントである事が確認出来ますね。

1階部分の漏水が激しいと書かれていましたから、建具の隙間が大きい事で起きるのだと思います。
確かにフロントは建具のクリアランスが大きいと思うのですが、クレセントが付いているでしょうからロックすれば家の中にドバドバ
雨風が入る事は無いと思うんです。

私も大きな障子を作ってクレームを貰った経験がありました(笑)
そのときはモヘア程度で簡単に解決しました。
フロントも70見込みだったとしても2400であれば反ってしまうことは
無いようにも思うんです。

いずれにせよ設計者も施工者も対応が悪いと言わざるを得ませんね。
残念です。
Posted by アーバンギアアーバンギア at 2013年06月09日 17:37
なんとおぞましい考え方か!全てに置いて限界を決めている時点で貴方の成長は、ありません!自ら建築家と名乗り設計意図も汲み取れないアフォーが他人の設計を否定するだけの能力があるのか?2間飛ばしでは、実現できない空間は、あるのは事実!それを実現できる力量があって初めてクレームになってる住宅のミスを語れる!設計、施工、部材強度全てに置いてこの場合の設計上なのか施工上の問題なのか部材の問題なのか理解できないはず!木造柱スパン2間と言ってる以上設計家とも言えないないまして建築家とか言えるほどの力量は、無い建築士とは、名ばかりのトレーサー!建築家を、名乗る不届きもの!
Posted by 名もなき設計家 at 2020年10月04日 18:28
名もなき設計家さん:

コメントを入れていただきましたが、非常に残念な書き込みですね。
誹謗と中傷を「匿名」で書き込むとは下衆の極みです。情け無いですし、
根性が無さ過ぎです。中学生並ですよ。顔写真は無理ですけど、
お名前をフルネームで、ご住所と電話番号も明記の上、ネットに
書き込んでください。僕は「丸出し」でやっています。
少しは、恥を知りなさい。
Posted by アーバンギアアーバンギア at 2020年10月04日 20:46
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