2014年11月01日

建築を教えます その一

と、タイトルを書きましたが。「その二」以降が
あるのでしょうか。自信がありません。
ただ現時点では、書くつもりでいます。
本当は「建築を教えてあげます」と付けるつもりでした。
「教えてあげる」。
随分と「上から」な感じがします。本当は、そのくらいの
気持ちでいます。だって一応「ノウハウ」ですし。

建築の仕事をしている人。
勉強をしている人。
普通の人。

興味があれば誰だって構いません。

もしかしたら相当に建築の専門的な話をするかもしれません。
この「2級建築士」どまりの私がですが。
出来れば拾ってきた、聞いてきた知識よりも「私ならでは」の
話、独自性のある内容でお送りしたいですね。
続いていけば建築の、建築現場の「裏」の話も暴露します。
非常に怖いですね(笑)

さて、最初は「住宅」のことを中心に書きます。
専用住宅です。諸々質問があればコメントでも下さい。
出来うる限り丁寧にお答えするつもりです。珍しく。

住宅ってのは「生活の基盤」ですかね。ホームベースです。
ここから出て行って、ここに帰ってくる。その繰り返しを
「一生涯続ける」ことになります。基本的には。
ですから「生きてゆくのに必要な要素を持たせる」ことが、
最優先になります。

かっこうは「二の次」です。
必ず「使える家」にしてから体裁を整えます。
建築家は体裁を整える作業を手を抜かない。
また、その能力に長けているものを言うと考えています。
まぁそこは、いいです。

さて使える家ですが。
格好を二の次にするのであれば、とにかく平面計画から
始まる訳ですね。住宅ですから必ず道路に接している訳です。

※このシリーズの記事では「基本的に」という言葉が付いて
回ります。正直いちいち上げ足を取ることができますが、
出来るだけ素直な気持ちで読んでください。


自家用車を持っていれば車で敷地に進入する「経路」、
人が出入りする経路、つまり「玄関の位置」を決定する事が
いの一番にする事です。
玄関位置は何通りか考える
事が出来るはずですが、とりあえず決定します。
話は前後してしまいましたが、「計画」を立てるには
「要求」を明確にする事からスタートします。

具体的には「必要な居室」からです。
収納だの何だの諸々のユーティリティも必要でしょうが、
とにかく「居室」からです。居室は「住人の寝る部屋」からです。
起きている時に使う部屋は「その次」です。何人が住んで
「誰と誰が寝るのか」を明確にします。「子供部屋」に子供を
寝かせるとか、夫婦は別々の寝室だとか、後々変更になる
可能性は、ありますが「要求、希望」の段階です。
とにかく寝る場所が無ければ住宅としての機能はゼロです。

配置は考えなくて良いのです。
次に共有部分ですが、ここで安易に「LDK」だとかって
考えてはいけません。居間と食事室を繋げる必要性も検討して
いないうちに「間取りを固定すると計画がまとまらない」のです。
階段やリビング・ダイニングは面積も大きく構造や間取りにも
とても大きく影響を与える部分です。


日当たりが、どうしたとか、道路から見えないようにだとか、
諸々意見は出るでしょうが、とにかく「寝室」について
考えます。そうです決定するのではなくて、
「考える」のです。

寝室なんだから「日が当たる必要は無い」だとか。
「朝日は当たる方が良い」だとか。
「年寄りだから日当たりが良い方が良い」とか。
「静かな位置にあった方が良い」だとか。
「子供部屋と夫婦部屋は離したい」とか。

とにかく意見を出し切ります。
私の考えとしては、住宅が満遍なく日照を得られる間取りで
ある必要性は低いと考えています。

そのように夢のような間取りを実現するには相当に広い
敷地が必要になります。また横並びにしてしまえば
動線と呼ばれる日常の移動距離が相当に長くなり「使える」
ことが第一命題であるはずの「住宅」が「勝手の悪い」
建築物になってしまいます。


お年寄りの部屋は日が当たる方が「温かくて明るい」部屋に
なり、昼と夜の温度差を小さく出来て好ましいと。

全く違います。素人考えです。


日が当たるという事は南中時では無い状態です。
冬であれば太陽が一番高い位置に来ても部屋の中に日光が
差し込む事もあるでしょう。夏は限りなく無いに近いです。
つまり朝夕の低い日差しが居室に直接入り込むという事です。
日差しが入り込んで、直ぐに温まるような部屋を
「熱容量が小さい」と言います。


分かりやすく言えば「断熱効果が低い部屋」だという事です。
外気に影響されやすいということは、日没後直ぐに部屋は
寒くなるという事です。昼夜の室温の変化は大きくなります。
したがって、機械的な制御、構造的な工夫が無い、「自然」な
状態で「お日様頼み」で快適な暮らしをしようと画策しても
限界があるという事です。
やはり間取りと暮らし方は大変に重要になります。

今、熱容量について触れましたが、熱容量が大きい場合、
つまり断熱効果が高い居室の場合ですが。
この部屋は暖房なり冷房なりの効果が現れるまでに若干の
時間を要します。ですが、安定させてしまえば外気の影響を
受けにくいので快適な室温が保たれる訳です。
この辺は、またいずれ話します。
今日は間取り。

居室に日照を過度に求めないようにしますが、寝る時に暑くて
寝苦しくて堪らない、とか。
寒くて痺れて寝付けないような「室内環境」ではダメです。

そこについてもいずれ話します。

ここまで整理できたら次に進みます。
寝室ですから防音や防犯についても「軽く」検討しておきます。
軽くで良いです。最終的には解決策を投じます。

ここまでで想像が付くと思いますが、共有部分に強く
配慮する事が住宅設計を成功させるか否かを決定する
分かれ道になります。
「居間」の計画を最も大切にされる方が多いのではないでしょうか。
違います。
ここも間違っている方が非常に多いです。

最も大切なのは「食事室」です。
あえてLDK(リビングダイニングキッチン)」とは言いません。
あくまで最優先は「飯を食う場所」、「飯を食う空間」です。

飯を食う空間には、そこに住む人達の「思想」が全て
映し出されています。


食事を取る事を単に「栄養・カロリーの摂取」だと考えるもの。
家族と会話を持てる豊かな時間と空間だと大切にするもの。


リビングにはテレビが置いてある事が多く、それらを視聴しながら
では、豊かな会話を生み出す事は難しいのです。
またDKと呼ばれる台所と食卓が一体、または一室にまとめられた
ものは家事の効率は上がりますが、調理をするものが積極的に
会話や団欒に加わる事は難しいのです。


ですから台所は「作業性」を最優先とし、食事室は一家の団欒を
終日可能にするルーミーな計画である事が大切です。


デッカイTVの前に馬鹿デカイソファにふんぞり返って、
大した意味があるとは思えないような番組を「ガン見」して、
夫婦の会話も無く、親子の会話も無く「さぁそろそろ寝なさい!!」
くらいしか子供に話しかけない。
ソファの反対側では携帯ゲームに夢中の子供が、親の顔も見ないで、
満足な返事もしないで部屋に帰ってゆく。

随分と夢の在る「家」じゃないですかね。

これでは折角の「高断熱高気密住宅」も「免震構造」も大して
意味があるとは思えないんですね。私は。

住宅の「心地よさ」「居心地の良さ」は「人」です。
これは絶対です。
どのような建築的な配慮よりも、そこに住んでいる家族が
寄り添って幸せに暮らしている事の方が「家」を豊かにします。


間取りの基本は「家族が、どのように暮らすか」を考える事です。

私の大好きな作曲家のひとり「バート・バカラック」の作品に
「A house is not a home」という曲があります。これまた大好きな
シンガー「ディオンヌ・ワーウィック」のために書かれました。

A chair is still a chair
Even when there's no one sitting there
But a chair is not a house
And a house is not a home
When there's no one there to hold you tight,
And no one there you can kiss good night.

A room is still a room
Even when there's nothing there but gloom;
But a room is not a house,
And a house is not a home
When the two of us are far apart
And one of us has a broken heart.

Now and then I call your name
And suddenly your face appears
But it's just a crazy game
When it ends it ends in tears.

Darling, have a heart,
Don't let one mistake keep us apart.
I'm not meant to live alone. turn this house into a home.
When I climb the stair and turn the key,

Oh, please be there still in love with me.



椅子は、いつになっても椅子のまま
そこに誰も座らなくなったとしても
椅子は家じゃないの
そして家は我が家じゃないのよね
そこにあなたを抱きしめてくれる人がいなければ
そこにあなたにおやすみのキスをくれる人がいなければ


部屋は、いつになっても部屋のまま
そこは空っぽで悲しみしか無かったとしても
でも部屋は家じゃないわ
そして家は我が家じゃないのよ
二人の心が遠く離れて
どちらかの心が崩れ落ちても

たまにあなたの名を呼ぶとね
突然あなたの顔が浮かんでくるのよ
でも、それはただの馬鹿げたゲームなのよね
すぐに終わるのだから
涙とともに終わるの

だからダーリン 心を持っているのなら
私達がそうだったように 離れていくような過ちを誰かと犯したりしないで
一人で生きていくなんてつもりはなかったわ

この家を我が家にするのよ
階段をあがって鍵を開けたら
お願い、そこにいて
私に恋したままで



私は母子家庭で育ちました。母と祖母と弟との4人家族です。
借家で「にこいち」と呼ばれる長屋暮らしでした。
決して優良な住宅環境ではありませんでしたが、幸せでした。
4畳半と6畳の続き間に小さな台所が付いているだけ。
お風呂も一旦玄関から出なければ入れません。
洗面所なんてありません。浴室に洗濯機は置いてありました。

湯沸かし器も最初はありませんでした。
年中「怒号」が飛び交う賑やかな家でしたが、住んでいる者の
表情が、いつでも手に取るように分かりました。
私の「住宅設計の基本」はこれです。

一緒に暮らしているから喧嘩もします。
でも一緒に笑ったり泣いたりもします。
収納が沢山あって、電気代が掛からなくて、綺麗な家だったら、
どんなにか素晴らしいか、私が一番良く知っています。
言わなくたって良いです。
だから建築家になって、一生懸命に「理想の建築」を飽きもせず
考え続けているのです。

それでも一番大切なデザインソースは「温かい家庭」です。

世の中には沢山の建設会社、大工に工務店、設計事務所に
建築士、建築家という「家を作ることの出来る専門職」がいます。
その中でも私に「住宅の設計を依頼する」最も意味がある事。
それは、人の「機微」を感じ取って設計をする稀な
建築家だということなのかもしれません。



※本当は私が歌って差し上げたかったけど。(笑)
硬いところでオリジナルを紹介しておきます。



建築家 本多 信章さんの家づくりプロフィール

URBAN GEARのホームページです

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Posted by アーバンギア at 13:13│Comments(3)建築
この記事へのコメント
アーバンギアさんが何を大切にしているのかが、よくわかりました。
商家でしたから、温かい家庭は子供の頃に一番欲しかったものです。
昭和の当時、狭いながらも楽しい我家があちこちにあったと思います。
それが時代とともにアメリカンナイズされ家族の距離が離れていったような
気がします。本多さんの根底にある温かいものは、忘れていたものを
思い出させてくれました。そして何が大切なのかを改めて教えて頂きました。
Posted by chicacochicaco at 2014年11月01日 17:30
おはようございます(^^)

確かに「家」は家族の絆、繋がりの場ですよね!
その一だけでも、アーバンギアさんのお考えの一端がうかがえました!
気持ちの「温もり」が伝わってきます。
ありがとうございます!
その2以降も待ち遠しいですヽ(^o^)丿
Posted by simosimo at 2014年11月02日 07:57
みなさんありがとうございます。これからも書き続けます。
Posted by アーバンギアアーバンギア at 2014年11月02日 17:09
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